[小 説/RO小説/moe6]

P009 終わりたい世界 / 2005-04-07 (木)

 一週間後、白いローブを着た組織の使いと名乗る人がうちを訪ねて来た。僕が入団を許された組織は、師匠の所属する騎士団とは別の組織らしく、組織に所属する者だけが使える特定の移動用の魔法を使わないと行けない場所にあるとの事だった。迎えに着た人は必要な質問以外には一切答えず、僕を移動魔法で転送した。
 着いた場所は巨大な石造りのホールのような場所だった。
 その後「こちらへ」とホールから脇の通路に入り、その突き当たりにある部屋へ案内された。その部屋に入ると。
「いらっしゃいませ~。本日はこちらでお召し上がりですか?」
 と白い服に金の縁取りがしてある服を着た女性に声をかけられた。
「あ、いえお持ち帰りで」と思わず答えてしまう。
「かしこまりました、それではこちらが、バルムンと制服そしてホイッスルです。これから頑張ってお仕事してくださいね」
 と、この世界でも本当に限られた人しか装備出来ないと言われる、バルムンと呼ばれる魔を立つ魔法剣。女性が着ている物と同じ制服とホイッスルと呼ばれた笛を受け取った。
 凄い装備を凄く軽いノリで渡された気がする。この組織は本当に大丈夫なのだろうか……。しばらく渡された装備を見ていたが、この一週間考えていたことを思い出し聞いてみることにする。
「ちょっと良いでしょうか?」
「あたしの幸せのためにお祈りでもするのですか?」
「僕はそんな怪しい宗教団体の者じゃありません……」
「それでは何でしょう?」
「僕は、テストの時に思いっきり逃げてしまったのですが、なんでこの組織に入団を許可されたのでしょうか?」
「それは、何もかも無視して逃げる、その逃げ足の速さです」
 その答えに思わず「へ?」と情けない声が口から漏れる。
「それでは研修頑張って下さい。期待してますよ、メルリーウィ」
「いや、逃げ足で採用されるってどういう組織なんですかーー!」
 と叫んだが、案内役の人は、何事も無いように次はこちらですと僕の腕を引っ張り部屋からでた。

 その後、研修に入り組織の活動内容や装備の詳しい扱いを習った。ホイッスルと呼ばれた笛は、どうやら前の首飾りと同じような機能があるらしく、吹くと制服を装着するようになっていた。最初の首飾りとは違い、黒子と名乗る人達が出てきてと言うことは無かった。あの黒子って一体なんだったのだろうか。
 最後に、この建物への移動と敵捕獲のための転送魔法の使い方を習い、それを修得した時点で研修は終わった。
 僕は再び最初に通された部屋に行き中に入った。
「いらっしゃいませ~。何名さまでしょうか?」と前と同じ女性が聞いてきた。
 一体この部屋って何なんだろうと思いながら「あ、一名です」と答える。
「喫煙席と禁煙席がございますがどちらに致しましょう?」
「禁煙の方でお願いします」
「かしこまりました、それでは、ご注文の方を繰り返させて頂きます。私達の組織の事は秘密となっています。貴方の本当の仕事やここの組織の事は口外しないようにして下さい。貴方には、明日から表向きには、プロンテラ騎士団員として働いて貰います。必要な時には、変身し本来の業務にあったってください」
 最初のやりとりは一体なんの意味があったのかよく分からないが、後半は研修中にも何度も言われた、秘密厳守という話しだった。
「以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
「それでは、お仕事頑張って下さい」


 その後、自分の家に戻った俺は、表向きプロンテラ騎士団に所属しながら組織の仕事を始めた。
 俺の仕事は、この世界での違法な兵器の開発や使用の取り締まりであったが、その仕事をしていると違反者とは関係ない人達とも出会う事がある。決まってその人達は俺をみるなり。
「本当に居るんだ~」とか「あれはどうなってるんですか!」などよく分からない質問攻めにあったり囲んだりしてくる。一般の人達であるため、取り締まるわけにも行かず、俺は只逃げるだけだった。
 戦闘能力よりも逃げる能力を重視する理由はこれだったらしい。
 組織に所属する他の人達も色々な意味で逃げが上手い人ばかりであり、とてつもなくダメな組織であった。組織のことは秘密と言われたが、恥ずかしくて誰にも言えないことだった。だから変身時に自分の正体がばれないように通りすがりの美少女ネタ戦士ウェポンマスターメルと名乗るようになり、自分の呼び方も、俺と私を使い分けるようになった。
 これで、俺がウェポンマスターメルとなった時の話しは終わりである。

永遠に続く争い(ラグ)の世界
  俺は何時までこの世界を守り続けるのだろうか
 でも俺が守りたいのはこの世界じゃない
   守りたいのはこの世界の人々なんだ
  俺たちが本当に戦わないといけないのは
 目に見える魔物ではなく 俺が所属する組織なのだから



「ていうか、こんな訳の分からない世界はもう嫌だーーー辞めてやるーーーーーーー!!」
「自殺だと保険おりないから事故死でお願いね」
「うわ、ゆ、ユキ姉何でここに!」
「というか早く死んでくれないと、掛け金が馬鹿にならないのよね。あれからいくら保険料払ってると思うのよ」と俺の問いを無視して小さな声で言う。
「ユキ姉丸聞こえだよー」
「まったく、一番恨みを買いやすくて殺されそうな仕事に就かせてあげたのに、なかなか死なないのよね」と俺の声が聞こえていないのか、小さな声で喋り続けるユキ姉。
すべてユキ姉の仕組んだ事だったのか……ほんとにもうヤダこんな世界。


「終わりたい世界 -完-」