[小 説/RO小説/moe6]

P008 終わりたい世界 / 2005-04-07 (木)

 師匠の事を思いだしたのは、それから二日後の事だった。
 あの後、街の近くまで走ったのだが、あの派手な鎧のまま街に入るわけにもいかず。人の通らない場所で、変身解除をしようと試みるも何も起こらず。自分で外そうにも着替えの服がなく脱ぐに脱げずに過ごした。
 次に日になってやっと黒子と名乗った人達が現れ。
「ちょっと忙しかったのですぅ~」と僕の変身を解いて行った。
 忙しいと変身したりできないってどうなんだろう……。
 その後街に入り宿屋へ戻ってゆっくり休んだ。
 そして翌日、宿の一階に朝食を食べに降りると。
「あら、メル無事だったのね、突然いなくなって心配してたのよ」
 と何事も無かったように話しかけてくるユキ姉。
「ん、あ、え~と……」
 あまりに、何事も無かった感じのそぶりに、今までの事が夢だったのではと思えて言葉に詰まる。ふと、ユキ姉の反対側の席に目をやると、そこに座る女性と目が合った。
「またお会いしましたね、メルさん」と栗色の跳ねっ毛少女が言う。
「あ、あなたはーーー!」とつい大声を上げてしまう。
「一体、なんなんですか、これは~~」
 と貰った首飾りを手に持ちながら詰め寄る。
「メルは朝から元気ですね」と不意に後ろから声をかけられる。
 振り向くとそこには、あちこちに包帯を巻いた師匠が立っていた。
「し、師匠どうしたんですかその包帯は!?」
 そう言いながら、あの時師匠が居たことを思い出し冷や汗を流す。
「何でだろうな、美少女戦士君」
 と、下がったミニグラスを左中指で押し上げながら言う。
「な、な、な、なんの事ですかーーーー」
 慌てて後ずさったために、ユキ姉の椅子の脚に引っかかり転んで尻餅をついてしまう。
「どうしたのウェポンマスター?」と椅子の上から覗き込むように言うユキ姉。
「うっ………も、もしかしてみんな知ってるの?」
 床に座ったまま、上目遣いで聞く。
「さー何の事です?」と言った後に、唇の端が上がりそれを隠すように握った手で口を押さえながら反対を向く。
「うわー、絶対知ってる、全部知ってるんだーーーー」
 その言葉と同時に、ユキ姉と師匠が大声で笑い出す。
「ユキ姉も師匠もその女の子も全部グルだったんだねーーー」
「いや、悪い悪い試験だったものでな」
 そういう師匠の目には、笑いすぎて涙が浮かんでいた。
「………試験?あれが一体なんの試験なんですかーー」
「騎士団への入団試験だよ」
「へ……」と間抜けな声を出してしまう。
「おめでとうメル。入団が許可されたそうよ」
 一体何がどうなっているのだろうか。
 訳の分からないまま座り込んでいる僕の側に、ユキ姉の反対側に座っていた女の子がやってくる。
「おめでとうございます、メルさん」
 そう言って蝋で封印された封筒を差し出してきた。
「詳しい事はその中に入っている用紙に書いてあります。一週間後に組織の者がお迎えにあがりますので、それまでに良く読んでおいて下さい」
「あ、はい」とだけ答え封筒を受け取る。
「それでは私はこれで失礼させて頂きます」
そう言って立ち去ろうとする女の子に向かって。
「あなたは、一体……?」
「私は、ユカリ……ユカリ=サクライ。この世界において、あらゆる物のテストを行う者です。それでは、またお会いしましょう」
そう言ってにっこりと笑って、ユカリと名乗った女の子は宿を出て行った。