[小 説/RO小説/moe6]

P004 終わりたい世界 / 2005-04-07 (木)

 夕飯時になり、剣の稽古を終えた僕達は宿に戻ることにした。
「しかし、腕を上げましたね。この仕事から戻ったら騎士団への入団を推薦してあげましょう」
「え、ほんとですか!?」
「ええ、その腕ならもう問題ないでしょう」
「やったー」と良いながら宿屋の扉をくぐり。先に帰ってテーブルに着いていたユキ姉の後ろ姿を見つけ駆け寄る。
「ねぇねぇユキ姉聞いてー」
 とユキ姉の前に回り込んだ僕は、その場で凍り付いた。
「どうしたんですかメル?」
 そう言って足早に僕の側に来た師匠も、一緒に凍り付く。
 そこにあったのは、生魚を貪るユキ姉の姿だった。
 数分後、衝撃から立ち直り横にいる師匠の顔を見る。僕と同じく師匠の顔も引きつっていた。その目線に気付きこちらを振り向いて一言。
「お互い、あの黄色いネコミミを着けなくて良かったな」
「そうですね」
「だけど、考え方によっては、あの方が幸せかも知れないが……」
 出来るだけ気にしないようにしているお互いのネコミミを見合って同時にため息をついた。
「とりあえず、ユキ姉に話しかけてみよう」
 僕は師匠の言葉に頷いた後
「ユキ姉~、お魚おいしい?」と呼びかける。
 その呼びかけに「にゃ~」と満面の笑顔で答えるユキ姉……がその顔には左右に三本のひげが生えていた。
「師匠ーーー!!、完全に猫化してますよーーー!」
 涙目になりながら師匠に訴える。
「言葉も忘れてる可能性高いですね……」
 引きつった表情で見ている二人を気にする様子もなく、魚を貪るユキ猫。が、不意に耳をピンッと立てると、何かを思い出したように机の下に置いてあった二メーターほどの紙包みをメルの方に押しつけた。
「……くれるの?」
 そう聞くと「にゃー」と言いながら頷いた。
「一体なんだろう……」
 その包みには「入団祝い」という文字が書いてあった。が一度開けた後に再び包んだような感じになっている。不思議に思いながらその紙を取り除くと、中からは三股の矛『トライデント』が姿を現した。ギリシャ神話に出てくる、ポセイドンの武器として有名な武器である……が。
「……生臭い……」
トライデントの所々に、魚の鱗が付いていた。
「それで、この魚を取ったのでしょうね」
ポセイドンの武器というと聞こえは良いが、実際は戦闘よりも漁に使われる事の多い武器である。
「しかし、その矛かなりの業物ですよ」
 それは、極限まで鍛え上げた鋼鉄の刃に、魔力を秘めた宝石(カード)が埋め込まれさらに強さをました業物であった。
「かなり高価な物だったでしょう」
「でも魚を捕ってきたんですよね……」とため息混じりに言う。
「これを作った人は、最初の得物が魚だとは思ってもみなかったでしょうね」
「そうですよね……。ところで師匠、なんで入団祝いとか書いてるのでしょうか?」
「メルの実力が分かってるから、入団出来るようになると思っていたのではないでしょうかね」
「ありがとう、ユキ姉……」呪いって文字が気になるけど。
 その言葉に対して、分かっているのかいないのかユキ猫は「にゃー」とだけ答えて最後の魚をゴクンと飲み込んだ。そしてお腹が一杯になって満足をしたのか、そのまま眠ってしまった。
 その後、眠ってしまったユキ姉を部屋に連れて行って寝かせた後、宿屋の一階の食堂で夕食を取りながら、明日からの調査の打合せをした。が、肝心の支援役であるユキ姉があの状態ではどうしようもなく、明日はユキ姉を戻す方法を探すと言うことになり、その日は各自部屋に戻って休む事にした。